○いなべ市役所における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領

平成28年2月18日

訓令第2号

(趣旨)

第1条 この要領(以下「対応要領」という。)は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「法」という。)第10条第1項の規定及び障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(平成27年2月24日閣議決定。以下「基本方針」という。)に即して、いなべ市職員(非常勤職員を含む。以下「職員」という。)が法第7条の規定に適切に対応するため、必要な事項を定めるものとする。

(不当な差別的取扱いの禁止)

第2条 職員は、法第7条第1項の規定に従い、その事務又は事業を行うに当たり、障害(身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害をいう。以下この対応要領において同じ。)を理由として、障害者(障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの。以下この対応要領において同じ。)でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。この場合において、職員は、別表に定める留意事項に留意するものとする。

(合理的配慮の提供)

第3条 職員は、法第7条第2項の規定に従い、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮(以下「合理的配慮」という。)の提供をしなければならない。この場合において、職員は、別表に定める留意事項に留意するものとする。

(監督者の責務)

第4条 職員のうち、課長又はこれに相当する職以上の地位にある者(以下「監督者」という。)は、障害を理由とする差別の解消を推進するため、次の各号に掲げる事項において障害者に対する不当な差別的取扱いが行われないよう注意し、及び障害者に対して合理的配慮の提供がなされるよう環境の整備を図らなければならない。

(1) 日常の執務を通じた指導等により、障害を理由とする差別の解消に関し、その監督する職員の注意を喚起し、障害を理由とする差別の解消に関する認識を深めさせること。

(2) 障害者から不当な差別的取扱い、合理的配慮の不提供に対する相談、苦情の申し出等があった場合は、迅速に状況を確認すること。

(3) 合理的配慮の必要性が確認された場合、監督する職員に対して、合理的配慮の提供を適切に行うよう指導すること。

2 監督者は、障害を理由とする差別に関する問題が生じた場合には、迅速かつ適切に対処しなければならない。

(相談体制の整備)

第5条 いなべ市役所に、その職員による障害を理由とする差別に関して障害者及びその家族その他の関係者(以下「相談者」という。)からの相談等に的確に対応するための相談窓口を設置する。

2 相談窓口は、相談者からの相談の内容となる事実の詳細その他必要な情報を聴取し、事実確認をした上で、相談対象事案があると認めるときは、速やかに是正措置及び再発防止策等を採るものとする。

(研修及び啓発)

第6条 障害を理由とする差別の解消の推進を図るため、職員に対し、必要な研修及び啓発を行うものとする。

この要領は、平成28年4月1日から施行する。

別表(第2条、第3条関係)

第1 不当な差別的取扱いの基本的な考え方

法は、障害者に対して、正当な理由なく、障害を理由として、財、サービスや各種機会の提供を拒否する又は提供に当たって場所、時間帯などを制限する、一方で障害者でない者に対しては条件を付さないなど、障害者の権利利益を侵害することを禁止している。ただし、障害者の事実上の平等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置は、不当な差別的取扱いでない。つまり、障害者を障害者でない者と比べて優遇する取扱い(いわゆる積極的改善措置)、法に規定された障害者に対する合理的配慮の提供による障害者でない者との異なる取扱いや、合理的配慮を提供等するために必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ障害者に障害の状況等を確認することは、不当な差別的取扱いには当たらない。

このように不当な差別的取扱いとは、正当な理由なく、障害者を、問題となる事務又は事業について、本質的に関係する諸事情が同じ障害者でない者より不利に扱うことである点に留意する必要がある。

第2 正当な理由の判断の視点

正当な理由の判断の視点は、障害者に対して、障害を理由として、財、サービスや各種機会の提供を拒否するなどの取扱いが客観的に見て正当な理由の下に行われたものであり、その目的に照らしてやむを得ないと言える場合である。職員においては、正当な理由に相当するか否かについて具体的な検討をせずに正当な理由を拡大解釈するなどして法の趣旨を損なうことのないよう、個別の事案ごとに、障害者、第三者の権利利益(例:安全の確保、財産の保全、損害発生の防止等)及びいなべ市の事務又は事業の目的、内容、機能の維持等の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて総合的かつ客観的に判断することが必要である。

職員は、正当な理由があると判断した場合には、障害者にその理由を説明するものとし、理解を得るよう努めることが望ましい。

第3 不当な差別的取扱いの具体例

不当な差別的取扱いに相当する具体例は以下のとおりであるが、第2で示したとおり、不当な差別的取扱いに相当するか否かについては、個別の事案ごとに判断することとなる。また、以下の具体例は、正当な理由が存在しないことを前提としていること及びそれらはあくまでも例示であることに留意する必要がある。

(不当な差別的取扱いに相当する具体例)

○障害があることを理由に窓口対応を拒否する。

○障害があることを理由に対応の順序を後回しにする。

○障害があることを理由に書面の交付、資料の送付、パンフレットの提供等を拒む。

○障害があることを理由に説明会、シンポジウム等への出席を拒む。

○事務又は事業の遂行上、特に必要ではないにもかかわらず、障害があることを理由に、来庁の際に付き添い者の同行を求めるなどの条件を付ける。

第4 合理的配慮の基本的な考え方

1 障害者の権利に関する条約(以下「権利条約」という。)第2条において、「合理的配慮」は、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義されている。

法は、権利条約における合理的配慮の定義を踏まえ、行政機関等に対し、その事務又は事業を行うに当たり、個々の場面において、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、社会的障壁の除去の実施について、合理的配慮を行うことを求めている。

合理的配慮とは、障害者が受ける制限は、障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるものとのいわゆる「社会モデル」の考え方を踏まえたものであり、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、障害者が個々の場面において必要としている社会的障壁を除去するための必要かつ合理的な取組であり、その実施に伴う負担が過重でないものである。

合理的配慮は、いなべ市の事務又は事業の目的、内容又は機能に照らし、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、事務又は事業の目的、内容又は機能の本質的な変更には及ばないことに留意する必要がある。

2 合理的配慮は、障害の特性や社会的障壁の除去が求められる具体的場面や状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものであり、当該障害者が現に置かれている状況を踏まえ、社会的障壁の除去のための手段及び方法について、「第5 過重な負担の基本的な考え方」に掲げる要素を考慮し、代替措置の選択も含め、双方の建設的対話による相互理解を通じて、必要かつ合理的な範囲で、柔軟に対応がなされるものである。さらに、合理的配慮の内容は、技術の進展、社会情勢の変化等に応じて変わり得るものである。合理的配慮の提供に当たっては、障害者の性別、年齢、状況等に配慮するものとする。

なお、合理的配慮を必要とする障害者が多数見込まれる場合、障害者との関係性が長期にわたる場合等には、その都度の合理的配慮の提供ではなく、後述する環境の整備を考慮に入れることにより、中長期的なコストの削減及び効率化につながる点は重要である。

3 意思の表明に当たっては、具体的場面において、社会的障壁の除去に関する配慮を必要としている状況にあることを言語(手話を含む。)のほか、点字、拡大文字、筆談、実物の提示や身振りサイン等による合図、触覚による意思伝達など、障害者が他人とコミュニケーションを図る際に必要な手段(通訳を介するものを含む。)により伝えられる。

また、障害者からの意思表明のみでなく、知的障害や精神障害(発達障害を含む。)等により本人の意思表明が困難な場合には、障害者の家族、介助者等、コミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明も含む。

なお、意思の表明が困難な障害者が、家族、介助者等を伴っていない場合など、意思の表明がない場合であっても、当該障害者が社会的障壁の除去を必要としていることが明白である場合には、法の趣旨をかんがみれば、当該障害者に対して適切と思われる配慮を提案するために建設的対話を働きかけるなど、自主的な取組に努めることが望ましい。

4 合理的配慮は、障害者等の利用を想定して事前に行われる建築物のバリアフリー化、介助者等の人的支援、情報アクセシビリティの向上等の環境の整備を基礎として、個々の障害者に対して、その状態に応じて個別に実施される措置である。したがって、各場面における環境の整備の状況により、合理的配慮の内容は異なることとなる。また、障害の状況等が変化することもあるため、特に、障害者との関係性が長期にわたる場合等には、提供する合理的配慮について、適宜、見直しを行うことが重要である。

5 いなべ市がその事務又は事業の一環として実施する業務を事業者に委託等する場合は、提供される合理的配慮の内容に大きな差異が生ずることにより障害者が不利益を受けることのないよう、委託等の条件に、対応要領を踏まえた合理的配慮の提供について盛り込むよう努めることが望ましい。

第5 過重な負担の基本的な考え方

過重な負担については、個別の事案ごとに、以下の要素等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的かつ客観的に判断することが必要である。

職員は、過重な負担に当たると判断した場合は、障害者にその理由をわかりやすく丁寧に説明し、理解を得るように努めることが望ましい。

○事務又は事業への影響の程度(事務又は事業の目的、内容又は機能を損なうか否か)

○実現可能性の程度(物理的及び技術的制約、人的及び体制上の制約)

○費用及び負担の程度

第6 合理的配慮の具体例

第4で示したとおり、合理的配慮は、障害の特性や社会的障壁の除去が求められる具体的場面や状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものであるが、具体例としては、次のようなものがある。

なお、記載した具体例については、第5で示した過重な負担が存在しないことを前提としていること、また、これらはあくまでも例示であることに留意する必要がある。

(合理的配慮に当たり得る物理的環境への配慮の具体例)

○段差がある場合に、車いす利用者にキャスター上げ等の補助をする。携帯スロープを渡すなどする。

○棚の高いところに置かれたパンフレット等を取って渡す。パンフレット等の位置をわかりやすく伝える。

○目的の場所までの案内の際に、障害者の歩行速度に合わせた速度で歩いたり、前後、左右及び距離の位置取りについて、障害者の希望を聞いたりする。

○障害の特性により、頻繁に離席の必要がある場合に、会場の座席位置を扉付近にする。

○疲労を感じやすい障害者から別室での休憩の申し出があった際、別室の確保が困難であったことから、当該障害者に事情を説明し、対応窓口の近くに長いすを移動させて臨時の休憩スペースを設ける。

○不随意運動等により書類等を押さえることが難しい障害者に対し、職員が書類を押さえたり、バインダー等の固定器具を提供したりする。

(合理的配慮に当たり得る意思疎通の配慮の具体例)

○筆談、読み上げ、手話、点字、拡大文字等のコミュニケーション手段を用いる。

○会議資料等について、点字、拡大文字等で作成する際に、各々の媒体間でページ番号等が異なり得ることに留意して使用する。

○視覚障害のある委員に会議資料等を事前送付する際、読み上げソフトに対応できるよう電子データ(テキスト形式)で提供する。

○意思疎通が不得意な障害者に対し、絵カード等を活用して意思を確認する。

○駐車場などで通常、口頭で行う案内を、紙にメモをして渡す。

○書類記入の依頼時に、記入方法等を本人の目の前で示したり、分かりやすい記述で伝達したりする。

○比喩表現等が苦手な障害者に対し、比喩や暗喩、二重否定表現などを用いずに具体的に説明する。

○知的障害者から申し出があった際に、ゆっくり、丁寧に、繰り返し説明し、内容が理解されたことを確認しながら応対する。また、なじみのない外来語は避ける。漢数字は用いない。時刻は24時間表記ではなく午前・午後で表記するなどの配慮を念頭に置いたメモを、必要に応じて適時に渡す。

(ルール及び慣行の柔軟な変更の具体例)

○順番を待つことが苦手な障害者に対し、周囲の者の理解を得た上で、手続き順を入れ替える。

○立って列に並んで順番を待っている場合に、周囲の者の理解を得た上で、当該障害者の順番が来るまで別室や席を用意する。

○スクリーンや板書等がよく見えるように、スクリーン等に近い席を確保する。

○車両乗降場所を施設出入口に近い場所へ変更する。

○いなべ市役所の敷地内の駐車場等において、障害者の来庁が多数見込まれる場合、通常、障害者専用とされていない区画を障害者専用の区画に変更する。

○他人との接触、多人数の中にいることによる緊張により、不随意の発声等がある場合、当該障害者に説明の上、施設の状況に応じて別室を準備する。

第7 用語解説

○社会的障壁

障害者にとって日常生活や社会生活を営む上で支障となることがらを指す。社会における事物(通行、利用しにくい施設、設備等)だけではなく、慣行(障害者の存在を意識していない慣習、文化等)や観念(障害者への偏見等)も含む。

○障害者の権利に関する条約

障害者に関するはじめての国際条約として、平成18年12月に国連総会で採決され、わが国は平成19年9月に条例に署名を行い、その後、条約の批准をめざして、必要な国内法の整備を進め、それらの準備を経て、平成26年1月に条約を批准、平成26年2月からわが国においても条約の効力が発生している。

○社会モデル

障害は個人の能力障害、機能障害に起因するものではなく、社会の障壁によって作り出されるものであるという考え方(社会の障壁には道路又は建物などの物理的なものだけではなく、情報や文化、法律や制度、さらには市民意識上の障壁等も含まれる。)で、わが国の障害者制度改革のベースとなっている権利条約の基本的な考え方。これに対して、個人に起因するという従来の概念を医学モデルという。

いなべ市役所における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領

平成28年2月18日 訓令第2号

(平成28年4月1日施行)